窓一つないその部屋で、切れかけたランプの明かりだけが細々と灯っていた。
 ――息が詰まりそうだ、と言ったのは誰だったか。
 遠い記憶の中に埋もれかけたそれは、中々思い出せなかった。
 絶え間なく響く苦痛と快楽の入り混じった声に、現へと引き戻される。
「考えごととは…………随分余裕だな……っ」
「君ほど辛い立場じゃないからね」
 息も荒いままに言ったドミニオンに、タイタニアは笑顔を見せた。
 錆びた鎖で戒めた両腕からは血が滲み、明かりに照らされた足は、動く度にゆらゆらと揺れる影を作る。
「……っ」
 歯を食いしばり、声を上げることをこらえる姿に、面白くなって律動を激しいものへと変えた。
 次第に小さく声が漏れだし、うっすらと浮かんだ涙を舐めとってやった。
「いいね、君」
「早く……終わ……れっ」
「どうして? もっと君の声が聞きたいのに」
「……っ」
 再び声を抑えようとするドミニオンは、自らが着ている蜘蛛の巣の刺繍が入ったコートの肩口に顔を押し付けた。前は開放され、下半身は既に何もまとっていない。
 そんな姿で、最低限だけ衣服を崩したタイタニアを受け入れていた。
「……つまらないなぁ」
 そう呟くと、タイタニアは浅黒い胸板に手をやり、小さく魔法を唱えた。
「――ホーリーライト」
「んんっ?!」
 いきなりの痛みに、ドミニオンの体が小さく跳ねる。
 手のひらから生み出された光は、その肌を焼き、醜い傷口を作った。
「ん……いいね」
 一瞬眉を寄せ、嬉しそうに焼けただれた肌に舌を這わせる。
 痛みに耐え、目をきつく閉じるドミニオンには、その態度がエスカレートさせる原因だと気づかなかった。
 タイタニアはおもむろにドミニオンの髪を掴むと、無理やり自分の方を向かせる。
「ねえ、口開けて。傷を治させてあげる」
 髪を引く痛みに耐えかねて薄く開いた瞳には、従わないことを物語っていた。
 そんなドミニオンに、タイタニアは笑みを浮かべて髪を掴んでない方の手で、爪で傷口をえぐる。
「うぁっ?」
 たまらず開いた口に、自分の腕を押し付け、ドミニオンに噛みつくように促した。
「少し顎に力を入れて、血を吸えば楽になるよ。君たちカバリストは、吸血行為で傷を癒せるんだよね」
 期待に声を弾ませ、ドミニオンを見つめるタイタニアの瞳には、半ば狂気の光が宿っていた。
 血を吸うのを拒むように、睨みつけてくるドミニオンに、傷をえぐる指に力をいれる。
「心臓えぐりだしても生きていられる? 内臓一つずつ出していこうか? どうしたら血を吸うのかなぁ」
 いつの間にか動きをやめ、ただドミニオンをいたぶるタイタニアは、酷く楽しげだった。
 ドミニオンが仕方なく白い肌に牙を潜り込ませると、痛いのかタイタニアは少しだけ顔しかめた。
 一旦吸ってしまうと、その味に歯止めが利かなくなる。
「……あまり吸うなよ」
 無心に血を吸うドミニオンに、髪を掴んでそれをやめさせた。
 血に濡れた口に、やや熱に浮かされたような顔は、酷く扇情的だった。
 噛みつくように口づけ、自分の血の味を確かめるようにその口腔を蹂躙する。
「んぅ……っ」
 嫌がる素振りをみせるドミニオンに、タイタニアは逃げうつ舌を絡めとり激しく貪った。
 気が済むまで口づけた後、ふと胸に目をやると、先程つけた傷はもうない。
 それをみて、タイタニアが嬉しそうに笑う。
「君なら、僕を楽しませてくれそうだ。まだまだ……壊れないでね」
 初めてドミニオンの瞳に恐怖が宿るのに気づきながらも、血と唾液で汚れた口元を舐めて、律動を再開した。