「何でこいつと……」
 ぶつぶつ言いながら、脱衣場で脱いでいるトランを後目に、クリスは複雑な心境でいた。
 お互い裸になると、否が応でもその華奢な肢体が視界に入る。上背がある割に随分細いな、と頭の片隅で考えながら、タオルを手にとった。
 腰にタオルを巻くか否か、頭を悩ませていると、トランの方はさっさと入っていったようだ。
 溜め息を吐きつつ、クリスも中に入っていく。
「その……私はすぐ出るから、ゆっくり温まってからこい」
「言われなくても、そうしますよ」
 背を向けて体を洗うトランに声をかければ、冷たい返事が返ってきた。
 それ以上何も言うわけでもなく、クリスも簡単に体を洗うと、トランに視線を向けることなく出ようとした。
「……待ちなさい」
「何だ」
 その気配に気づいたのか、トランは振り返りながらクリスを呼び止める。
 内心驚きながらも、クリスは平静を装って淡々と聞き返した。
「あなたは温まってないでしょう。少しでも湯船に……」
「私はいい」
 トランの言葉を遮るように言い放つと、それ以上言葉を聞く前にクリスは出ていく。
 何かトランが言っていたが、無視して体を拭いて着替えはじめた。
「クリス!」
 濡れた姿のまま、声を荒げて近づいてきたトランに、クリスはそちらを見ようともしない。
 そんな態度に、トランの顔が険しくなった。
「くだらない見栄はよしなさい。あなたが風邪をひいたら、皆に迷惑がかかるんですよ」
「私はお前と鍛え方が違うんだ。お前こそ、さっさと温まって……」
「入る気がないなら、食堂で温かいスープでももらってこい。そんな顔色で平気なんて、冗談が過ぎる」
 トランの言葉に、ちらりと鏡を見ると、あまり焼けずに白いままの肌が、血の気が引いて更に白い。
 エイプリルが風呂に行けと勧めてきたのが、ようやくわかった。
「……どちらも嫌だというのなら、好きにしなさい。私もこれ以上あなたの振る舞いに口を出す気はありません」
「トラン……」
 また浴室へと戻る姿を見て、クリスは思わずその腕を掴む。
「何ですか?」
「あ……悪い。その……食堂に行ってくる」
「ちゃんと温まる物を選んでくださいよ」
「……ああ」
 驚いた顔で振り向いたトランに、慌てて手を放して謝ると、気まずそうにクリスは食堂へと向かった。








トランが母親のよう。