窓から見えた空は、いつの間にか陰鬱な表情を見せていて、先程の予感が当たったと思う。
 外に出てトランが行きそうな路地裏などを探してみたが、どこにもその姿はなかった。
「……どこにいるんだ」
 思わず口に出しながらも、クリスはあちこち探し歩く。
 どうせ傘など持ってないだろうし、メイジらしく体の弱いトランでは、雨に濡れたら風邪を引くのが関の山だろう。
 やけに心配になる自分の気持ちにも戸惑ったが、これは仲間だからと思い込んだ。
 まさか、と思いながら図書館の方に向かうと、ぽつりと雫が頬をうつ。
「……降ってきたか」
 泣き出した空は、徐々にその雫の量を増やした。
 急いで図書館まで行くと、一通り見て回る。
 仕方なしに司書にトランの容姿を告げて尋ねると、どうやら行き違いだったらしく、既に出ていったようだった。
 そうしているうちに雨は段々激しくなり、慌てて外へと出る。
 濡れるのも気にせず、クリスは街中にトランの姿を探した。
 宿への道のりを辿っていくものの、見慣れた筈の帽子は見えない。
 しばらく探した後、宿にいる二人に心配かけまいととりあえず戻った。
 髪や服をある程度絞り、それでも多少雫が滴り落ちながらも部屋に入ると、そこには同様に濡れ、服を脱いで絞っているトランがいた。
 驚いた様子のトランに目が釘付けになっていると、ノエルがタオルを差し出してくる。
「クリスさん、早く着替えないと風邪ひいちゃいますよっ」
「あ、ありがとうございます」
 タオルを受け取り、濡れた髪を拭くと、クリスはトランに何も言わずに自分の荷物に着替えを取りに行った。
「……こんな雨の中に出掛けるとは、神殿の犬も随分と酔狂な」
 ぽつり、とそう呟いたトランに、思わずその胸ぐらを掴む。
 トランの方が上背はあるが、クリスの力なら絞め落とすことなど容易い。力加減を間違えたか、苦しげな顔をするトランに、クリスは慌てて手を離した。
「……っ、何するんですか」
 軽く咳き込み、クリスに恨みがましげな眼差しを向けると、トランは距離を取る。
 そんな態度に、クリスは背を向けて着替えを取り出した。
「……ふらふらとほっつき歩いている悪の手先に言われたくないな」
「用事もなく出掛けたあなたに、言われる筋合いはありませんよ」
「あぁうっ……喧嘩はダメですよっ?」
 二人の険悪な雰囲気を感じてオロオロするノエルに、エイプリルがくつくつと笑いながらその頭を撫でてやる。
「お前ら、着替えるなら風呂入ってこい。そのまま風邪ひかれてもかなわんからな」
「先に行け。私は後でいい」
「あなたこそさっさと入ってきてくださいよ。私は……」
「二人で行ってこい。嫌だというなら俺が風呂にぶちこむぞ」
 キャリバーをつきつけながら、拒否などさせないと言わんばかりの態度に、クリスとトランは一瞬視線を合わせ、渋面で頷いた。







…まだまだ二人は仲悪いですね。