「……おい」 久々の宿の一室で、不意に不機嫌な声で呼びかけたのはクリスだった。 ベッドに腰掛けてグリモアに目を通していたトランは、溜め息混じりでそちらを見る。 「何ですか、神殿の犬」 「お前、暑くないのか?」 「は?」 そう問われ、クリスに視線をやると、簡素なシャツとズボンだけになった姿が目に入った。椅子に腰掛け、苛立った様子でトランを見ていた。 「ああ、ここは暑いですからね。窓開けたらどうですか」 「既に開けた」 「じゃあ我慢してくださいよ」 やれやれ、と溜め息を吐きつつ言うトランに、クリスの表情が更に険しくなる。 「お前を見てると暑苦しいんだ!」 「あなたのような暑苦しさはないと思いますが」 「……暑い中、着込んだまま平然といられると余計暑さが増す……! 少しは脱げ!」 「お断りします」 ローブやら着たままのトランは、酷く暑苦しく見えた。それに耐えかねたクリは、注意から実力行使へと変える。 やおら立ち上がると、トランの胸元のマントの留め具に手をかけた。 「何するんですかっ!」 「これだけでも脱げ!」 「お断りします! というかお前に脱がされたくない!」 「脱げないなら脱がしてやる!」 激しく抵抗するトランに、クリスは力でベッドにねじ伏せる。 そんなタイミングで、部屋のドアが、軽いノック後に返答を待たずに無情にも開かれた。 「クリス、トラン。明日は……邪魔したな」 何かいいかけた来訪者、エイプリルはそう言葉を繋げて再びドアを閉める。 一瞬時が止まったように、ドアに視線が釘付けになる二人は、やや間を置いてから飛び起き、そして――。 「誤解だエイプリルー!?」 |